心の気圧
私がよく使う例え話に深海魚の話しがあります。
すごい水圧下、深海に生息している深海魚。この深海魚を急に水圧のほとんどな い環境下に移してしまうとどうなるかご存知でしょうか?
急に、圧のない地上にあげられた深海魚は内部から膨らんで、破裂してしまうそうです。
人間の心にも似たような性質があるようです。
これは昔どこかの本で読んだのですが、あるカウンセラーさんが、燃え尽き症候群的な重度なうつのクライアント さんを担当されました。
このクライアントさん、もともと企業戦士的な躁的な性格でこれまで鬱状態とは無縁。
ともかくこの状態を一刻も早く取り除いて欲しいという感じだったようです。
そしてその要望どおりこの方、たった一回のカウンセリングでなおり、病気以前よりさらに元気な状態になったそうです。
しかし、大成功のカウンセリングと喜んでいたのが急転直下。
なんとそのクライアントさん2週間後に自殺してしまったのです。
後から振り返ると、そのクライエントさんの元気さは、身近なものから見ると、異様といっていいくらいの不自然な元気さだったようです。
もちろん、1回のカウンセリングで本当によくなる方もおられるのですが、このように急になおるのが逆に危ないケースもあります。
補足として付け加えますと、1回で治るカウンセリングで大丈夫なケースとしては、クライエントさん自身が、長年の心の葛藤の助走期間があり、その1回のカウンセリングはあくまで最後のきっかけにすぎなかったというケースでは1回で治るケースもありえます。
心理学の世界のレジェンド、ユングの逸話でこんな逸話があります。
ユングはそのクライエントさんを一目見て、どこに問題があるか一瞬で見抜いたそうです。
しかし、ユングはあえてそれを口にせず、なんと10年間ひたすら待っていたそうです。
そして、10年後そのクライエントさんの病気はきれいになおりました。
その最後のカウンセリング、ユングにこう語ったそうです。
「おそらく先生は最初から私の問題に気づいていたのだと思います。しかし、その段階で私の問題を指摘されたとしても、私の心はもたなかったでしょう。しかし、今なら私のどこに問題があるか自分ではっきりとわかります。はっきりと認めることが出来ます。この10年私を信用し、ひたすら待ってくれて、本当にありがとうございました。」
10年ってすごいですね。しかし、カウンセリングにおいては、時にそれく らいの忍耐が必要となることもあります。
人間の成長は螺旋階段ともいいます。いくらやっても全然上にあがれている気がしない。あれやこれややっても、ぐるりと回って、一見、また同じところに戻ってきたような気持ちになって、絶望的な気持ちになることもあるでしょう。
しかし、実際は以前より少しはステージが上がっているわけです。早くなおるのを目指すことももちろんいいことです。
しかし心の世界では、急がば回れ、くらいの気持ちでいた方が、結果としては早くなおることもあるようです。